鉄の女

「おかあさん、パパって不倫したこと

あるのかなぁ」

朝の情報番組の芸能コーナーを観ながら

娘が突然言い出した。

は〜ん、この前成績のことで父親に叱られたから

愚痴りたいのか‥

「知らないわ、仕事と子育てに忙しくて

そんなことに気を回してる暇がないわ」

「興味ないの？パパのスマホみたりとかは？」

「ドラマの見過ぎね、自分がされて嫌なことは

相手にしないのは当たり前でしょう？」

「おかあさんってさ、離婚しようと言われても

ハイどーぞとか言いそう。何か強いよね

鉄の女って感じ、離婚したらいいのに‥

そしたらママについて行くのに‥」

さすが娘、母のことをよくわかっている。

母は強い。

しかし、離婚する気はないが‥

飛躍しすぎだろう。

「おかあさん、結婚して幸せ？」

「死期が迫った時に考えるわ」

「じゃあ今までの人生で一番幸せだと

思うことは？」

今日の娘はくどい‥

そろそろシメよう。

「2人の子供を産めたことよ。

あのね、2人共おかあさんも

命懸けの出産だったの。

新生児室で保育器に入ったあなた達を眺めて

生きてほしいと願ってたの。

それが元気に育ってくれたから

もう十分よ。あとはそれぞれの人生を

後悔しないで生きてくれたらいいの。

パパはどう考えてあなたを叱るかは

わからないけど

あなたの今の成績じゃあ

この先後悔だらけね。

朝からグダグダ言ってないで

今日1日まじめに生きたらどうよ？」

「はーい。こんなに話しが広がると

思ってなかったわ笑笑」

娘は自室に消えていった。

私の人生なんて後悔だらけで

悔やみきれないこともたくさんある。

後悔するよりも嫌なことは

後悔して弱ってる自分を他人に見せることだ。

慰めてもらって回復する方法は

忘れてしまったようだ。

弱い所を隠すため鉄の鎧やら

仮面を装着してきたから

50年かけて、いけすかない鉄の女が仕上がった。

願わくば、娘は鉄の女にならないでほしい。

ありのまま、今のままで生きてほしい。